
これまでご出演いただいた客演の皆さんと
対談していこうというこの企画
「劇の人のはなし」。
第三弾のお相手は橋本真一さん。
2014年、大阪のみで上演された舞台『AGAIN!』。
劇団として初のミュージカルにチャレンジしたクリスマス公演で、主演いただきました!
対談相手は橋本さんと同世代の劇団員、伊藤駿九郎です。
さてどんなエピソードが出てくるのかお楽しみください!
――舞台『AGAIN!』はもう5年前ですが、覚えてますか?
橋本 もちろんですよ。僕の中で『AGAIN!』はめちゃめちゃ大きい作品です。物語後半の募金のシーンで、お客さんが客席から直接舞台上に上がってきてくれて、本当に募金してくれたのをとてもよく覚えてます。
お芝居の中の演説シーンなのに、お客さんもそれを分かって観てくれていたのに上がってきてくれたということは、作品としてなにか届いたのかなって思っています。
そして微々たるものかもしれないけど、そのお金が難病の女の子の元に実際に届いたっていうのが、自分たちがやったお芝居が人の人生を変える、影響を与えるところを目の当たりにして実感できたことがとてつもなく大きかったです。
このために芝居を続けていきたいと思えた体験でした。あれ以来いろんなところで言ってます。
伊藤 たしかに舞台が進んでいる中で、急にお客さんがああやってアクションを起こしてくれるっていうのは他にないですね。終演してスタンディングオーベーションがわぁーって起こってうわぁーって感動するのとはまた違いましたよね。しかも前の席の方のお客さんじゃなくて、割と後ろの席の方のお客さんがわざわざ舞台上にまできて募金してくださったことが、よりグッときましたね。
橋本 お手紙等で感想などをいただかない限り、お芝居が終わった後、何がどう伝わったのかわからないし、実際その人の人生に影響を与えられたのかどうかとか、人の人生に影響を与えられるような何か貢献ができたのかどうかとか、実際確認することは難しいし、想像することしかできない。
伊藤 確かにそうですよね。
橋本 けれどあの時は一人の女の子が移植手術を受けるっていうところに携われた、自分たちの芝居で心を動かして、それが募金という形になってその女の子のところに届いて、その女の子の人生が変わったっていう、自分のやった芝居や想いの先がはっきり見えたのは貴重な体験でした。あの時はまだ自分のお芝居っていうものに対するモチベーションというか想いが、今思えばまだまだ浅くて、あのタイミングですごくひとつ、これを生きがいにしていきたいなって思えたっていうか、っていうのはありますね。
伊藤 …いきなりめちゃくちゃいい話ですね。
橋本 ここだからじゃないよ。(笑) 本当に強く思っていて、いろいろなところでも喋ってるから。それくらい僕の中で大きな作品で、ターニングポイントですね。もちろん作品の中身も素敵だったからこそ起こったことだと思います。
伊藤 宇田が聞いたら喜ぶと思います。

――伊藤くんは『AGAIN!』の印象に残ってることはありますか?
伊藤 募金のシーンは僕も舞台上にいて感動したのは覚えています。僕個人としてはコメディリリーフ的な面白キャラだったことや歌やダンスをがっつりやる公演が初めてだったので、とにかく楽しいクリスマス公演っていう印象です。舞台に出てない時も楽しくて、舞台上で橋本さんがソロで歌うシーンは楽屋で一緒に熱唱してました。(歌う)
橋本 うわ、懐かしい!
伊藤 男子楽屋だけじゃなくて女子楽屋でも歌ってたらしいですよ。
――せっかくなので『AGAIN!』のあらすじを簡単に教えてください。
伊藤 あらすじはですね、僕が演じる飯田がジャンボジェットのパイロットなんですが、物語はある日彼が飛行機を操縦中にサンタさんらしき人を轢いちゃうところから始まるんですよ。
橋本 そうそう(笑)
伊藤 その頃、橋本さんが演じる栗栖燦太(くりす・さんた)は半ニート状態で目標も生きがいもなくふらふら生きている。ところが突然実家に呼び出されて、お父さんに「おじいちゃんが行方不明になった。そして、実は私たちはサンタクロースの家系なんだ」って言われるんです。で、行方不明になったおじいちゃんの代わりに燦太がサンタをやってくれって言われるんです。ところがサンタクロースの仕事っていうのが実は普通に知られているような、プレゼントをみんなに配るっていうことではなくて…なんでしたっけ?(笑) あ、金貨だ!


舞台『AGAIN!』のチラシ。
橋本 そうそう。(笑) もう先生の気分で聞いてるよ。
伊藤 サンタさんの本当の仕事っていうのは、1枚の金貨を…
橋本 人生を好転させるきっかけの?
伊藤 あ!人生を好転させるきっかけになる1枚の金貨を誰か1人にあげるのが本当のサンタクロースの仕事なんです。だからお父さんに「燦太、その1人を今年はお前が選ぶんだ」っていう風に言われるんですよ。で、トナカイ一族の人たちにも協力してもらって街を見にいって、金貨をあげる候補を3人にまで絞る。その3人のうち誰に金貨をあげようかなって話です!
橋本 いやいや。(笑) で、結局、燦太はサンタとしてコインをあげて誰か1人を幸せにするんじゃなくて、1人の人間として3人を幸せにするっていう話。
伊藤 そんなお話です!

橋本 その中でさっきの演説のシーンがあったんだよね。作品の山場のシーンだったから、今でもセリフの内容を覚えてますね。
「1円でもいいんです。たった1円でもいい。でも日本人全員が1億2千万人が1円ずつ出せば、1億2千万円、10円出せば12億円集まるんです。だからたった1円でいいんです。それで救われる命があることを覚えていてください」
セリフは結構忘れちゃう方なんですけど覚えています。作品が終わると、捨ててるつもりはないけど、結構すぐ切り替わるので、新しい情報が入ってくると僕は引き出しにストックというよりか上書き保存なのか、アンパンマン方式なのか。
伊藤 頭ごと新しく入れ替わるパターン?
橋本 そう。(笑) なんですけど、5年経ってもこのシーンで言った内容は覚えています。それ以来募金とかに対する自分の考え方も変わりました。
伊藤 ぼくはやっぱり橋本さんのソロシーンが好きでした。まだ誰にコインをあげようか悩んでいる段階で、燦太の葛藤や無力さが伝わってくる切ないシーン。これをソロの歌で表現していてすごいなぁって。
橋本 懐かしい。また歌いたいです、あの歌。実は3年前くらいからブロードウェイの作品とか本格的なミュージカルをやらせてもらえるようになってて、今の状態で『AGAIN!』をもう一回やってみたいです。
伊藤 もし再演する時は出てくれますか?
橋本 もちろん!てかあれ以来ずっとオファー待ってるのに声かけてくれないから。(笑)
――他に『AGAIN!』で印象に残ってることはありますか?
橋本 サンタの話で、僕「燦太(さんた)」って名前なんだって思いました。(笑)
伊藤 「さんた」って名前からしてもうサンタ大好きな家ですもんね。
橋本 そう。(笑) お前実はサンタなんだよって言われても納得しちゃいますよね。
伊藤 僕はパンフレット用の写真で、ザ・クリスマスフリークな衣装で大阪城の外周をスキップしたのが恥ずかしかったです。
橋本 あの衣装懐かしい!
伊藤 あの衣装、まだ家にあります。(笑)


これがその衣装。大阪城公園でひたすらスキップしている写真が残っている。
(舞台『AGAIN!』パンフレットより)
橋本 あ、劇中でその衣装にツッコむシーン中で、小道具の携帯を袖に忘れてきたことがあったなあ。携帯に出てる文字を読むっていうシーンだから携帯がないとダメだったから、お客さんから見えないようにして必死に思い出しながら喋りました。あと、宇田さん骨折してましたよね?
伊藤 あぁ!ありました!飛び蹴りの着地で。燦太が街をみてるシーンで、とある街角に露出狂が現れて宇田さんはそれを捕まえる刑事だったんですけど、そこで犯人を捕まえる時に飛び蹴りをしたら着地で打ち所が悪くて。
橋本 めっちゃ痛そうだった。
伊藤 ちなみに私事ですが、本番期間中に初めて自分の誕生日を祝ってもらいました♪
橋本 嬉しいね。僕、本番中はまだ一回もないんだよなぁ。
伊藤 サプライズのケーキを橋本さんにあーんってしてもらいました♪
橋本 その時の写真あるよ。
伊藤 え、嬉しいです。これ対談の写真で使いましょう。
橋本 懐かしいなぁ。
(後編へつづきます)
橋本真一(はしもと・しんいち)さんのプロフィール
1989年10月9日生まれ。大阪府出身。マナセプロダクション所属。
ミュージカル「GODSPELL -カミ ノ ミコト バ-」、ミュージカル「RANGER-レンジャー-」などに主演の他、「僕のヒーローアカデミア」The "Ultra" Stage、「メサイア-月詠乃刻-」、ミュージカル「赤毛のアン」など
多数の舞台に出演。
また、BS-ジャパン連続ドラマJ「極道めし」レギュラー、チバテレ「救命戦士シェルブレイブ」主演等、映像作品でも活躍。
公式HP:http://www.manasepro.co.jp/m_artist_05hashimoto.html

フライヤーデザイン
古里泰司(FILM)
theatre PEOPLE PURPLE
『AGAIN!』
脚本・演出 宇田学
2014年12月17日(水)~23日(火・祝)
大阪・HEP HALLにて上演
■あらすじ
自分に自信を持てず、就職もしてない、恋人もいない来栖燦太はクリスマスを一週間後に控え、憂鬱な日々を過ごしていた。
そんな彼に祖父が行方不明になったと電話がかかってくる。急いで家に戻ると、家族会議になっていて、見知らぬ親戚まで集まっていた。
しかし、祖父の所在を探しているものは誰一人おらず、燦太の耳に聞こえてきたのは
『飛行機にぶつかったらしい……』『25歳になったんだから、伝えるべきだ……』という会話……。
不思議に思っていた燦太は父親に別の部屋へと連れて行かれ、突然、自分達一家がサンタクロースの血を引いているということを告げられる。
燦太は祖父から急遽サンタクロースの役目を引き継ぐことに……。